独ペリックス社の高機能トラックボールPERIMICE-720。下駄を履かせることで傾斜角を選択可能にしたトラックボールの元祖でしょう。諸々高機能にして比較的お求め安い価格の実力者です。
ペリックスといえば他社製品でも径さえ合えばだいたい使えることもあって交換球が有名ですが、トラックボールそのものも販売しており、本機はその中でも最上位機種という扱いのものだと思います。
本機登場前、2017年に、親指型の本家本元LogiさんがMX ERGOという旗艦機を発売されまして、MX ERGOは0°と20°、2つの可変式傾斜機能を持ったトラックボールでした。それまでは本家本元Logiさんの中でも扱いはあくまで「中級」に設定されていた親指型トラックボールが完全に本流になったという意味もありましたが、それまで愛好家界隈内々で、自作の傾斜台等に載せ角度をつけて使用されていることもあったトラックボールに、製品そのものに傾斜機能を持たせた機種が、しかも最上位機種として登場したインパクトは結構なもので、以後、この傾斜型は、主に親指型トラックボール界でひとつの型として定着します。
本機ペリマイス720はその傾斜型の派生系で「下駄式」「ポックリ式」などと呼称されることもある、海外ではクサビ(wedge)とも言われるようですが、下駄式の親指型トラックボールです。
初見の印象
私が所有しているのは無線式の黒版で、この項の印象はそれを前提とします。なんでこんなこと言うかって、どうもカラーバリエーションによって感触違うらしいんですよ。私が所有している黒版の外装は、天面、掌が触れる部分はマット処理が施されているような樹脂製で、テカテカしておらず相応に落ち着いた雰囲気にサラサラした手触りも良い具合です。
一方で白版の外装は艶ありで、手触りも違うそうなので、購入を検討される際はその点にご注意ください。近年カラーバリエーションで白と黒がある機種も出てきましたが、モノによっては本機と同じく黒版と白版で表面処理が違い、それによって手を置いた感触が違う機種もあったりします。小売店で販売しないことで価格を抑え、かつカラバリなんかも展開しやすくなったのだろうと想像しますが、トラックボールの場合、表面処理の具合で使い勝手が変わってきたりもしますからねぇ。こういう世の中にならなければトラックボールの復権もなかったでしょうけど、やはり可能な限り店頭で確認したほうが良いとは思います。
本体色と接続方式とで微妙に搭載球の色が変えてあったりする辺りは、さすが替球で有名なPerixxと言ったところ。
本体の第一印象は黒版ということもあってかなかなかの存在感。ペリックスさん公式ページで「手の大きい方へおすすめ」と言及されています。全長全幅なんだかんだ既存の親指型と大差ないのですが、ゲルマン魂溢れる直線的な物腰も相俟ってか、なんとなくボリュームがあるように見えます。
このぐらいのサイズ感だと「大きくて握れない」と感じる方も居られるのではないかと思いますが、握るのではなく、あくまで手を載せる、置く形だと思います。最近でこそ小型のトラックボールも珍しくなくなったので、つい握ろうとする方も居られると思いますが、なんかちゅーたらすぐスシ呼ばわりされるからって職人でもないのに握ってはいけませんよ。疲れるだけです。あくまで手は置く。とにかく握らず、置いて固定することを意識して頂ければ、ちーとばかし手が小さくても、指が短くても、どうとでもなると思います。これは本機に限らずほぼ全てのトラックボールに言えることだと思いますので、他機種のページでも言及した記憶がありますが何度でも言います。トラックボールと賄賂は握ってはいけません。
までも、慣れないうちは無駄に力んで、握ったり掴んだりしてるうちに押した覚えのないボタンを暴発、なんてことがあるかも知れません。慣れて行けば自然と力が抜けて握らなくなると思いますので、そこまでの辛抱です。もし現在我々が知っているGUIで制御するパソコンのポイント装置として、マウスではなくトラックボールが最初に選ばれていたなら、普通に誰でも当たり前にトラックボール使っていたと思いますよ。
一般的な親指型からすると上背も少し高めだと思いますが、操作球が埋まっている位置も上側に寄っているので、手を置く形で安定させるポイントを見つけてさえしまえば、実際に操作する上での感覚はあまり掌を広げず、親指と人差し指の距離が開かない(離れない)形になると思います。
5ボタン1特殊ボタン1ホイール。ホイールはチルトつき。2段階の分解能設定と、ドングル使用の独自無線接続とBT接続に対応していますが、接続方式切り替えスイッチは本体底面にあるので、本体上面に切り替えスイッチがある機種のように手軽な切替こそ出来ませんが、接続感度などに問題は感じません。
マグネティック・ポックリ
本機の大きな特徴である下駄、ポックリは、本体底面に埋め込まれた磁石で「ガショッ」と固定されるようになっており、この分離合体時の感触、超合金で育った世代にはグッとくるものがあります。ビ〜ルドア〜ップ! バンバンバンバン。鋼鉄ジーグの超合金は実に遊び甲斐がありました。MX ERGOのマグネティックシーソーもなかなか良い具合のギミック感がありましたがこちらも負けていません。余剰部品が出ない完全変形という意味ではMX ERGOに軍配が上がりますが、合体変形用の別パーツが付属している本機には往時の超合金感があり、ここまで来ると発泡スチロールの容器が恋しくなるところです。残念ながら本機はブリスターパック入り。というか最近発泡スチロールって大型電気機器の緩衝材ぐらいでしか見かけなくなりましたね。
本機の傾斜用ポックリは、単に親指側だけが持ち上がっているのではなく、最も低い手前(手首)側、人差し指方向が最も高く、小指方向は少し低く、みたいな感じでただの傾斜ではありません。この辺は、1本の軸で傾斜していたMX ERGOとは違う個性を発揮していると思います。
私個人的には下駄を使わない素の状態でも使用には特に問題を感じませんが、傾斜型が好きな方には2種類の下駄で選べる傾斜角3種類というのはなかなか魅力的でしょう。
本機に限った話ではなく、そもそもが特に傾斜を求めない私でも、低い方(10°)の下駄は装着して使用しても邪魔だとは感じませんので、うまい具合に調整されているのではないでしょうか。高い方を使うとさすがにちょっと、浮いてしまう自分の腕を支える別の調整、例えばハンドレストなどが欲しくなりますが、この辺りは使う人それぞれの感覚だと思いますし、それぞれに良さがあるのも感じられます。
操作感覚
操作感覚は良好です。一般的な親指型のイメージからすると少し背が高く、34㎜操作球も垂直に近い壁に横から埋まっているような形の本体なので、手を置き親指を操作球に載せたフォームは、見た目他の親指型とはちょっと違うように映りますが、操作している感覚は一般的な親指型を扱っている時と大きく差があるようには感じません。飛び抜けた良さみたいなものは感じませんが、なにか問題があるようにも感じません。
支持球は少し大きめの、真っ白なセラミック球のように見えます。他に似たような大きさと素材の支持球を採用している親指型トラックボールもありますが、だいたいそれらと似たような感触に思います。
ただ、初見の印象時でも多少触れたように、操作球の設置位置が本体の天面により近づいているおかげか、あまり親指を大きく広げず、人差し指横により近い位置での操球している感覚があります。これを具合良いと取るかそうでないと取るかは人それぞれかなと思うものの、私は結構好きです。一般的な親指型トラックボールとの感覚の差としては本当に微妙だと思いますし、言われなきゃ気づかない程度だろうとも思いますが、各所に細かく「具合良い」を散りばめて行って最終的には全体が「とても具合良い」になってくれるといいですねぇ。
また、操作球の埋まり方は同期のS社155に似ていると思います。掃除等で操作球を取り外す際、下から棒で突いて排出を試みても天井に引っかかって少し外しにくいんですが、この2機種はその感覚がそっくりです。
ボタンとホイール
主要なスイッチ類はすべてマイクロスイッチのようで、押すと「カチッ」という音としっかりした感触が返ってきます。最近は静音スイッチの需要も高まっているので、静音型を求めるユーザーの方は向いていないトラックボールですが、これは良し悪しではなく、そういうトラックボールということ。それに部品単体で見ればマイクロスイッチの方が高価だったよね、確か。高けりゃ良いということでもありませんけど。
メインの左右クリックはきちんと別パーツで設えられたもので、しかもかなり大きい(前後に長い)んですが、どこを押してもちゃんと反応して働いてくれる、なかなか優秀なボタンです。私があまり好きでない板バネ式のボタンだと押す場所によっては反応が悪かったり、あるいはそもそも押せなかったりすることがありますが、本機の左右クリックボタンはそういうことはなく、おかげで手が小さく(指が短く)てもなんとかなりますし、指先だけでなく指の腹なんかでも押せます。
左クリックボタンの左側に鎮座している戻る進むボタンも、細いですがキチンと立体的に起こしてあるおかげで、なかなか押しやすく感じます。この辺最近のLogiさんなんかはあまり工夫しなくなったというか、あるいは暴発防止で意図的に存在を消す方向へ舵を切ったのかも知れませんが、これらのボタンの押しやすさを重視する方には評価して貰えるポイントではないかと思います。私はMacユーザーでして、AppleはHIDのボタン配分に従う気がなさそうなのと、公式のユーティリティも存在しないので、自力で使用方法を準備しない限りはそもそも使えませんけど。
ホイールは回すとカタカタ音がするタイプで、もちろんノッチの感触もあります。見たところ、同じ2020年デビューの機種、K社のProFitやS社の155に搭載されているホイールとよく似ています。さすが同期の桜。このホイールはチルト対応で、左右に倒すことで左右スクロールになりますが、本機のホイールは設置面に対して垂直に取り付けられているので、右から左へ倒す分にはいいですが逆は本体の形状上露出面がが少ないので、若干倒しづらく感じる場面がありました。
ただ、普通に上下スクロール操作を行う際は、深く埋めてある(ホイールの背が低い)おかげで指の移動が容易なんですよね。世間には、左ボタン上にスタンバイしている人差し指を少し横へズラしてホイールを回す方も結構な数、居られると思います。そういう人にとっては指の横移動で激しい障害物競争をしなくて済む、扱いやすいホイールなのではと思います。なんでしょうねこの、苦手なコースのすぐ隣にホームランコースがあるみたいな感じ。好き!
私は基本的に中指でホイールを回すのであまり恩恵は受けられませんが、決して悪いことばかりではありません。そもそもチルトスクロール自体がどうなんだよって思ってますし。生みの親のMicrosoftはすっかり見放してるみたいですよ。
接続方式と電源
私が購入したペリマイス720が独自無線とBluetoothの2無線に対応、ペリマイス520が有線式となります。Bluetoothは4.0、2.4GHz独自無線を採用したレシーバは本体裏面、電池室に収納が可能です。
720は単4電池×2本での駆動です。本体は結構大きいのに単4搭載ということで、うーん。なんとなくどこで造られたかが判るような気はしますが、電池の持ちはどんな具合でしょうね。目玉が飛び出すほど長持ちということはなさそうな気はします。
PERIMICE-720 まとめ
メーカーのPerixxさんが直々に公式サイトで「手の大きい人におすすめ」と言われています。私自身決して手は大きくなく、成人男性の平均〜気持ち小さめ、ぐらいですが特に問題なく扱えているので、極端に小さい方だとキツいかも知れませんが、大きくないと使えないということでもないんじゃないかとは思うものの、生みの親がそう言っているのですからある程度は参考にしたほうが良いかも知れませんね。
5ボタン(+1特殊ボタン)+チルトホイールで、ボタン数は上位機種に迫る多機能を誇り、それでいて価格はメーカー希望の時点でギリギリ5千円を下回るように設定されている。細かく見ていけば価格相応なところもありますが、実用上特に問題は感じず、ぱっと見でも決してそうとわかるようなこともなく、本当にこの価格でよくぞここまで、というトラックボールだと思います。最近でこそ5千円以下で十二分な性能をもった機種もぽつぽつ出てきましたが、チルトホイールを条件に入れるとほとんど競争相手はいません。
ただですね。黒版は良いのですが、白版は表面処理が違うこともあってか「置いた手が少し滑る」という話を耳にします。トラックボールへの手乗せ感覚ってな本当に人それぞれ十人十色なので皆が皆そう感じるかは判りませんが、多少念頭に置いた上で検討した方が良いかも知れません。一方、私のお洒落な友人がかつて「お洒落を貫くには我慢が必要だ」という名言を聞かせてくれたことがあります。なるほどと感じ入ることしきりでした。え? 私? 堪え性のなさには自信がありますね。はい。